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前橋家庭裁判所高崎支部 昭和56年(少ハ)2号 決定 1981年8月20日

少年 G・U子(昭四〇・八・一生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

一  申請に至る経緯

少年は、昭和五五年三月一二日、当支部より、無断外泊を重ねその間不純異性交遊を継続する等自己の徳性を害する性癖を有し、その性格・環境に照して将来窃盗等の罪を犯す虞があるとの虞犯保護事件につき初等少年院(短期処遇)送致決定を受け、同年八月二九日、愛光女子学園を仮退院し、高崎市○○町×の×の祖母G・S子方に帰住して、前橋保護観察所の保護観察下にあつたところ、一か月を経ずして家出を繰り返し右帰住先に居住しなくなつたため、保護観察所の調整の結果、高崎市○○町××の理容業C方に住込みで就職するようになつたものの、再度家出を敢行するに至つたため、昭和五六年七月二七日右保護観察所に引致され、同日保護観察所長の申出により関東地方更生保護委員会が審理開始決定を行い、同年八月五日、右委員会より、当支部に対し、戻し収容申請がなされるに至つたものである。

二  申請の理由

1  少年は、

(一)  昭和五五年九月一四日ころから同月一八日までの間前記帰住先G・S子方から家出し、中学校の同級生らと、高崎市内、前橋市内、足利市内を放浪し、

(二)  同年一〇月二五日ころから一一月三〇日ころまでの間、右帰住先から家出し、愛光女子学園収容中に知り合つた安中市内のA子のもとなどに仮泊し、

(三)  昭和五六年七月四日、前記住込先のC方から家出し、右A子のもとなどに泊り歩き、同月一四日父親にアルバイト先で就労中のところを発見され、一旦は前記帰住先G・S子方に戻つたものの、同月一七日、再び家出し、同月二七日ころまでの間、高崎市○○町に居住する○○一家○○組の準構成員Bのもとに仮泊し、

(四)  同年七月四日ころ、住込先のC方において、雇主である同人所有の現金五、〇〇〇円を窃取したほか、同人から数回にわたり現金を窃取し、

たものであり、右(一)ないし(三)は法定遵守事項四号に、(四)は同二号に該当する。

2  以上のように、少年は、無断外泊をしないように再三にわたる指導を受けていたにもかかわらず、住込就職先から家出を繰り返すなど、少年の生活態度は改善されなかつた。

その原因は、不幸な家庭環境に起因するところが少なくないと思われる。少年は、父親に対して反感をもち、一所に生活することを拒否しており、仮退院当時の引受人である祖母方も、環境調整の結果、消極的に少年を引受けることになつたもので、その保護能力にも多くを期待することができず、更に現在では父親も祖母方に居住しているため、従来にも増して同所に居住することには問題がある。又、元の住込先で従来どおりの生活をするについては、他の従業員に対する配慮もあり実現の可能性に乏しい。更に父親に対し、少年に対する態度改善へ向けての働きかけをする必要もあるが、これには相当の期間を必要とするものと思われる。

ところで、少年の、現在の行動傾向は、おおむね本件初等少年院送致決定がなされた際に認められた状況に類似しているものであり、更に最近ではこれに加え右1(三)記載のとおり暴力団関係者ともかかわりを持つようになり、このままの生活を続けるならば暴力団関係者とのかかわりが深まることによつて、本人の非行内容も一層深刻なものになり、改善更生を図ることが更に困難なものになると思われる。

よつて、この際少年を少年院に戻して収容することにより新たな非行を防ぐとともに、再度の矯正処遇によつて反省と更生への自覚を促し、他方、この間にしかるべき住込就職先の開拓を含めその帰住先の環境の調整にあたることが相当と思料し、本申請を行うものである。

三  裁判所の判断

当裁判所における審理の結果によれば、申請の経緯及び申請の理由各記載のとおりの事実が認められ、右遵守事項違反の内容は、家出、不純異性交遊を中心とした少年院送致の原因となつた虞犯事由とほぼ同一であつて、前記二1(四)の窃盗を犯すに至るなどその虞犯性は今だ改善されるにいたつていないものと断ぜざるを得ない。

ところで、少年が本件遵守事項違反を犯すに至つた原因は、基本的には少年自身の不満耐性の低さによるものと言わざるを得ないがその背景として父親との深い葛藤の存在が指摘されねばならない。少年から見た父親は、充分な生活力を具えていないにもかかわらず少年に対し口うるさく説教し、しかも少年を利用しているものと映つており、父親に対し、敵視、嫌悪の情を示すに至つている状況である。このような中にあつて、根本的な解決にあたつては少年と父親との関係を改善することが要請されるが、少年の一歳時に父母が離婚し、崩壊した家庭にあつて親族間をいわばたらい回しのようにされて育てられた少年と、定職を持たず祖母の下において居候同様の生活を送つている父親との間を現在早急に改善することは不可能に近いものといわざるを得ず、保護観察所の調整の結果定められた住込就職先においても不適応を示して飛出してしまつた現状においては、他に適当な社会資源が存在しないところから、社会内処遇を続けていくことが困難な状況にあるものと認められ、この際一まず少年を、中等少年院に戻して収容したうえ不満耐性を強め社会適応力を身につけさせ、父親に依存しなくても生活できるだけの積極性をも具えさせるよう指導すると共に、右のような少年に対し強力な指導力を発揮しうる資質を具えた指導者を有する住込就職先を可及的すみやかに開拓し、少年の社会復帰に具えることが必要と思料される。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条を適用して主文のとおり決定し、あわせて、少年審判規則五五条、少年法二四条二項により、保護観察所長に対し、右の趣旨に副つた住込帰住先の開拓に早期に着手すると共に、父親に対し、早期に生活基盤を安定させ、自らの生活態度を通じて少年に対する適切な働きかけが行えるよう指導することを要望するものである。

(裁判官 古田浩)

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